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富山地方裁判所 昭和38年(ワ)116号 判決

主文

昭和三八年五月一日開催された被告組合の創立総会における役員の選挙(選挙された理事および監事の氏名は別紙記載のとおり)はこれを取り消す。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

事実

(当事者の求める裁判)

一、原告

昭和三八年五月一日富山市千歳町二〇番地富山県薬事研究所講堂において開催された被告組合の創立総会における定款の承認、事業計画の設定および収支予算決定に関する各議決ならびに役員の選挙(選挙された理事および監事の氏名は別紙記載のとおり)は、いずれもこれを取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決。

二、被告

第一次的に、

原告の請求中招集手続の法律違反(請求原因(二)の(1))を原因とする部分を却下し、その余の部分を棄却する。

第二次的に、

原告の請求を棄却する。

との判決。

(当事者の主張)

一、原告

1、請求原因

(一) 被告組合は、昭和三八年五月一日富山市千歳町二〇番地富山県薬事研究所講堂において創立総会(以下、本件創立総会という。)を開催し、同年一二月二八日付で富山県知事の設立認可を受けたうえ、同三九年一月一一日設立の登記をして成立した中小企業団体の組織に関する法律に基づく商工組合である。

(二) 原告は被告組合の設立発起人に対し設立の同意を申し出ていたもので、被告組合成立後はその組合員となつたものである。

(三) 本件創立総会において、定款の承認、事業計画の設定および収支予算決定に関する各議決(以下、本件各議決という。)ならびに役員の選挙(以下、本件選挙という。選挙された理事および監事の氏名は別紙記載のとおり)が行われた。

(四) しかしながら、右各議決および選挙はつぎの理由により取り消されるべきである。

(1) 中小企業団体の組織に関する法律四七条一項、中小企業等協同組合法二七条一項、二項が要求している、定款および本件創立総会開催の日時、場所の公告が、適法になされていない。

(あ) 本件創立総会の開催日の前に定款の公告がまつたくなされていない。

(い) 定款および本件創立総会開催の日時、場所が、昭和三八年四月一七日以降富山市千歳町所在富山県薬業連合会事務所内に設置された被告組合創立事務所に掲示されていたとしても、右事務所の所在場所が被告組合設立同意申出者にはまつたく知らされていなかつた。従つて、これらの者が定款を見ることは不可能な状態であつたから、右掲示には公告としての効力はない。

(う) 被告組合発起人が昭和三八年四月一七日付北日本新聞に本件創立総会開催の日時、場所を掲載したことは認めるが、被告組合に関する公告を同新聞に掲載してなすことをあらかじめ発表したことはなかつたのであるから、創立総会に出席し得る者(設立に同意を申し出た者)は同新聞によつて公告がなされることを予期できず、従つて右掲載は公告としての効力を有しない。現に原告も本件創立総会開催後はじめて右掲載の事実を知つた次第である。

(え) かりに、右(う)の新聞への掲載または(い)の創立事務所における掲示に公告としての効力が認められるとしても、右各公告は法定期間を欠いている。すなわち、右定款ならびに開催日時および場所の各公告は、会議開催日の少くとも二週間前までにしなければならないと規定されているから、総会開催日と公告開始の日を除きその中間に少くとも二週間を要するわけである。従つて、昭和三八年五月一日開催の本件創立総会の場合には、公告開始の日は同年四月一六日以前でなければならないにもかかわらず、公告開始が四月一七日であるから、公告としての効力はない。

(2) 中小企業団体の組織に関する法律四七条一項、中小企業等協同組合法二七条五項所定の定足数および最低表決数を欠いている。

被告組合の組合員たる資格を有する者で本件創立総会の日までに発起人に対し設立の同意を申し出た者は四、二八五名であつたから、定足数は二、一四三名、議決に必要な最低表決数は一、四二九名である。しかるに、右総会の出席者はわずか一五〇名のみであつたにもかかわらず、本件各議決および選挙が行われたのであるから、定足数を欠いていたことは明らかである。また賛成一〇〇名、反対五〇名で議決が行われたから、最低表決数を欠いていたことも明らかである。

なお、本件総会において書面または代理人をもつて議決権、選挙権を行使した者はなかつたのであるが、かりにあつたとしても右議決権等の行使は許されない。すなわち、中小企業団体の組織に関する法律四七条一項、中小企業等協同組合法二七条六項、一一条二項によると、書面または代理人による議決権、選挙権の行使は定款にこれを認める旨の規定がある場合に限り許されるのみである。ところで右の定款とは、適法に議決された定款をいうものであることは明らかであるから、創立総会の段階では右の意味における定款は存在せず、従つて本人の出席による権限行使が必要であり、書面又は代理人によることは許されないからである。

(3) 本件選挙は中小企業団体の組織に関する法律四七条二項、中小企業等協同組合法三五条七項、九項、一〇項に違反してなされた。

すなわち、本件役員選挙に際し、出席していた原告が、総会の議長を勤めていた塩井幸次郎に対し、役員選挙は無記名投票によつて行うことを要求し、かつ原告が右選挙に立候補する旨を申し出たにもかかわらず、議長塩井幸次郎は原告の要求を無視し、指名推選の方法を用いたのみならず、別紙記載の者をそれぞれ理事、監事として指名した後ただちに閉会を宣言し、右被指名人を当選人と定めるかどうかについて総会にはからず、従つて出席者全員の同意を得ていなかつたにもかかわらず、右被指名人を当選人としたのである。

2  公告手続の瑕疵に関する主張を追加しうる理由

(一) 被告は、公告手続の瑕疵に関する主張(請求原因(四)の(1))が総会開催日から三カ月以内になされていないから、右主張は許されない旨主張する(後記二の2)が、原告が法定の期間内に本件各議決および選挙の取消請求の訴を提起した以上、右期間経過後においてもその取消原因を追加主張することは許される。

(二) かりに右主張が認められないとしても、右瑕疵に関する主張を法定期間内に提出できなかつたのは、もつぱら被告の責に帰すべき事由に基くものであるから、原告は右主張を追加できる。すなわち、原告が本件訴を提起するには、あらかじめ本件創立総会の議事録を閲覧することが必要である。法は役員に対し総会の議事録の備付を義務づけており、組合員はこれを閲覧謄写する権利を有しているにもかかわらず、原告が昭和三八年七月一八日および翌一九日被告組合発起人放生繁雄に対し本件創立総会の議事録の閲覧を求めたところ拒絶され、さらに同月二二日付書留内容証明郵便で発起人代表塩井幸次郎に対し右議事録の閲覧謄写を申請したがまたも閲覧を拒絶されたのである。このように被告が原告に対し違法に右議事録の閲覧謄写を拒絶したがために原告は法定期間内に右の主張を提出できなかつたのである。

二、被告の答弁および主張

1、請求原因(一)ないし(三)の事実はいずれも認める。

2、請求原因(四)の(1)記載の各種公告手続に瑕疵があつた旨の各主張は、昭和三八年九月五日に当裁判所へ提出され、同月六日に陳述された同月五日付準備書面によつて初めてなされたものである。すなわち、右主張は、本件創立総会の開催された昭和三八年五月一日から三カ月内になされていないことが明らかであるから、許されない。

3、かりに、請求原因(四)の(1)記載の各主張が許されるとしても、被告組合発起人は定款および総会開催の日時、場所をつぎのとおり適法に公告した。

すなわち、被告組合の定款五条には「本組合の公告は本組合の掲示場に掲示し、かつ必要があるときは北日本新聞及び薬日新聞、家庭薬新聞に掲載してする」と定めてあり、発起人はこの規定に従い、昭和三八年四月一七日以降富山市千歳町所在の富山県薬業連合会事務所内に設置された被告組合創立事務所に、定款および総会開催の日時、場所を公告し、さらに右日時、場所は同日付北日本新聞にも掲載して公告した。

なお、中小企業等協同組合法二七条二項にいわゆる「会議開催日の少くとも二週間前」とは、会議開催日の前日を第一日として逆算し、一四日目に当る日以前を指すものと解すべきであるから、右各公告は期間の点においても適法である。

4、請求原因(四)の(2)の事実は否認する。定足数に不足はなかつた。

すなわち、本件創立総会の日までに発起人に対し設立の同意を申し出た者は四、二九一名であつたから、右総会における定足数は二、一四六名である。本件創立総会の出席者は、本人の現実出席二九五名、代理人により議決権、選挙権を行使し出席者とみなされた者一、〇三二名、書面により右各権限を行使し出席者とみなされた者一、〇七二名、以上合計二、三九九名であつたから、定足数をみたしていることは明らかである。なお、被告組合の定款には書面または代理人をもつて議決権を行うことができる旨を明定してある。

また、本件各議決については、いずれも原案どおり満場一致で可決されたものである。

5、請求原因(四)の(3)の事実中、塩井幸次郎が本件創立総会の議長を勤めたこと、役員選挙に際し指名推選の方法を用い、別紙記載の者を役員に指名推選したこと、原告が同総会に出席していたことは認めるが、その余の事実は否認する。

本件役員選挙は適法に行われた。すなわち、議長塩井幸次郎が役員選挙に際し、まず指名推選の方法によることを総会にはかり、出席者全員がこれに賛成し指名推選の方法によることが可決されたので、議長塩井は別紙記載の者を理事、監事にそれぞれ指名推選した後、右被指名者をもつて当選人と定めるかどうかを総会にはかつたところ、出席者全員の同意があつたので右被指名者が当選人と確定したのである。

(証拠関係)省略

別紙

選挙された役員の役職および氏名

一、理事

塩井幸次郎、石黒七三、今村政雄、常田政信、放生繁雄、村杉逸郎、山本安三、牧田清二、堀友二郎、曽我正雄、酒井金次郎、坂井儀雄、新舗文次、蜷川政義、神田米三、早崎仙次、松井元吉、道振義一、三枝有一、金森大山、田中忠二、山崎六郎

二、監事

〓恒久、布村四市、寺松義光、中田八郎、金森吉治

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